『VIVANT』黒須役・松坂桃李の朗読がいい|西加奈子『サラバ!』をAudibleで聴いた感想

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西加奈子『サラバ!』Audible版を松坂桃李の朗読で聴いた感想のアイキャッチ画像

『VIVANT』で黒須を演じる松坂桃李さん。

俳優として魅力的なのはもちろんですが、「この人、声もすごくいいな」とあらためて思わせてくれたのが、西加奈子さんの小説『サラバ!』のAudible版でした。

上・中・下、すべての朗読を松坂桃李さんが担当しています。

実際に聴いてみると、声の良さだけではありません。

主人公・歩の人生を追っていくうちに、いつの間にか自分自身の生き方まで考えさせられていました。

『VIVANT』で松坂桃李さんが気になった人にも、そして長編小説をじっくり味わいたい人にも、おすすめしたい作品です。

目次

主人公・歩と松坂桃李の声が妙にしっくりくる

『サラバ!』の主人公は、圷歩(あくつ・あゆむ)。

歩は容姿に恵まれた人物として描かれています。

そして、そのことが彼の性格形成にも少なからず影響しているように感じました。

周囲から自分がどう見られているのかを敏感に察する。

場の空気を読む。

できるだけ波風を立てず、周囲とうまくやっていこうとする。

そんな歩を松坂桃李さんの声で聴いていると、妙にしっくりくるんですよね。

もちろん、歩と松坂桃李さんはまったく別の人物です。

それでも僕の中では、松坂桃李さんの姿をぼんやり思い浮かべながら聴くことで、歩という人物像がすんなり入ってきました。

そして何より、松坂桃李さんの朗読が上手い。

声を過剰に作り込むわけではないのに、人物によってきちんと表情が変わる。

長時間聴いていても疲れにくく、物語そのものを邪魔しません。

俳優としてだけでなく、「声の芝居」も一流なんだなと思いました。

2025年公開の劇場アニメ『ひゃくえむ。』でも、松坂桃李さんは主人公のひとり・トガシを演じています。

映像作品とはまた違う、「声だけで演じる松坂桃李」をたっぷり味わえる。

それもAudible版『サラバ!』の大きな魅力です。

上・中・下の長編。でもAudibleなら意外と聴ける

『サラバ!』は上・中・下の3巻からなる長編です。

Audible版は、3巻合わせると約22時間あります。

僕は1.7倍速で聴いたので、単純計算では約13時間ほど。通勤や移動時間に少しずつ聴けば、思っていたより負担なく楽しめました。

本で読むとなると、

「面白そうだけど、なかなかのボリュームだな……」

と少し身構える人もいるかもしれません。

その点、Audibleは相性がいいです。

通勤中や移動中、家事をしながらでも少しずつ先へ進められます。

1.7倍速でもテンポよく進みつつ、松坂桃李さんの朗読は十分楽しめました。

「『サラバ!』を読んでみたいけれど、3巻読む時間を作れるか不安」

という人には、むしろAudibleで聴く方が入りやすいかもしれません。

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心に残った、姉・貴子の言葉

歩の人生に大きな影響を与える人物のひとりが、姉の貴子です。

この貴子が、なかなかのクセモノ。

子どもの頃から強烈な個性を放ち、家族を振り回し続けます。

僕も聴きながら、

「なんなんだ、この姉は……」

と思った場面が何度もありました。

しかし物語を追っていくうちに、その貴子が口にする言葉が、とても重く響いてきます。

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」

西加奈子『サラバ! 下』(小学館)

僕は、この言葉が『サラバ!』という物語を貫く、とても大切なメッセージのひとつだと感じました。

「自分が何を信じるのかは、自分で決める」

言葉にするとシンプルです。

でも、実際にそう生きるのは案外難しい。

そして今の時代だからこそ、この言葉の重みはさらに増しているように思います。

SNS時代だからこそ「自分の芯」を持つのは難しい

スマホを開けば、毎日のように誰かの意見が流れてきます。

「これが正しい」

「こう生きるべきだ」

「今はこれが常識だ」

多様な価値観に簡単に触れられるのは、素晴らしいことです。

一方で、あまりにも多くの意見が目に入ってくるからこそ、

「じゃあ、自分はどう思うのか」

が分からなくなることもあります。

これは若い人だけの話ではありません。

ミドルエイジになった僕にも、同じように刺さりました。

むしろ仕事や家族、世間体、これまで積み重ねてきたものが増えるほど、

「自分は本当はどうしたいのか」

を見失いやすくなることだってあるのかもしれません。

周囲とうまくやっていくことは大切です。

でも、それと自分の信じるものまで周囲に決めてもらうことは違う。

貴子の言葉を聴きながら、そんなことを考えました。

我が家には本好きの息子たちがいます。

彼らが中学生くらいになったら、『サラバ!』を読ませてあげたい。

あるいはAudibleで聴かせてあげるのもいい。

そのくらいの年齢から少しずつ、

「周囲に合わせること」と「自分の軸を持つこと」

の難しさが始まるような気がするからです。

イラン、エジプトの描写にリアリティがある理由

『サラバ!』では、歩とその家族がイラン、日本、エジプトと環境を変えながら暮らしていきます。

日本とは違う文化。

宗教。

学校生活。

現地の人々との出会い。

かなり特殊な体験が描かれているのですが、それなのに妙に生活感がある。

そしてユーモアにもあふれています。

なぜこんなにリアルなんだろうと思い、西加奈子さんの経歴を知ると納得する部分がありました。

西加奈子さん自身、1977年にイラン・テヘランで生まれ、エジプト・カイロと大阪で育っています。

一方、主人公の歩も父親の海外赴任先であるイランで生まれ、その後大阪、エジプトで暮らします。

実際、西加奈子さん本人へのインタビューでも、歩の「テヘラン生まれ、大阪、エジプト」という経歴が自身と重なることについて触れられています。一方で、歩はあくまでフィクションの人物で、『サラバ!』は自伝ではないとも明確に語られています。

👉西加奈子さんが『サラバ!』の背景について語ったインタビュー(文春オンライン)

もちろん、『サラバ!』は西加奈子さんの自伝ではありません。

歩もフィクションの人物です。

ただ、西さん自身の経験や、幼少期に見た景色、異国で暮らした感覚などが、何らかの形で作品に溶け込んでいるのではないか。

僕にはそう感じられました。

「西加奈子さん自身がモデルなのでは?」

と思わせる部分は確かにありますが、実在の作者と主人公をそのまま重ねるのではなく、

作者自身の人生を材料のひとつにしながら、歩という別の人間の人生を作り上げた

と考える方がしっくりきます。

なぜ僕は、ここまで歩の人生に入り込めたのか

『サラバ!』を聴き終えて感じたのは、

「歩という一人の人間の人生を、一緒に生きた」

ような感覚でした。

小説や物語というものは、そもそも自分とは違う誰かの人生を追体験できるものです。

それでも、

なぜ僕はここまで歩に入り込めたのだろう。

少し考えてみて、思い当たることがありました。

歩の性格が、どこか自分と重なるんです。

周りに合わせてしまう。

空気を読んでしまう。

できることなら面倒なことは起きてほしくない。

少し、ことなかれ主義。

歩は最初から強い人間ではありません。

迷うし、流される。

人からどう見られているかを気にする。

ときには、自分が何を信じたいのかさえ分からなくなる。

そんなところに、

「分かるなあ」

と思ってしまいました。

山崎豊子作品の主人公には憧れる。でも歩には自分を重ねる

自分の信じる道を選ぶことを象徴する分岐点の道標

僕は山崎豊子作品も大好きです。

『不毛地帯』の壹岐正。

『沈まぬ太陽』の恩地元。

『大地の子』の陸一心。

彼らは、ものすごく強固な意志と精神を持った人物です。

どれほど理不尽な状況に置かれても、自分の信念を簡単には曲げない。

だからこそ格好いいし、憧れます。

でも同時に、

「自分には、ここまで強く生きられないな」

とも思うんです。

その点、歩は違います。

迷う。

周囲に合わせる。

ときには逃げる。

うまくいっているときには、その状況を当然のように受け入れてしまう。

そんな弱さや格好悪さも持っています。

だから僕は、歩に対して

「こうなりたい」

という憧れよりも、

「分かるなあ」

という感覚を強く持ったのでしょう。

そして物語の中で、そんな歩が葛藤し、もがきながら、自分なりの生き方を見つけようとする。

僕が『サラバ!』という長い物語にここまで没入できたのは、そんな歩の姿に自分自身を重ねていたからなのかもしれません。

『VIVANT』の黒須が気になった人にも聴いてほしい

『サラバ!』は決して短い作品ではありません。

でも、その長さがあるからこそ、歩の人生を一緒に歩いてきたような感覚があります。

イラン、エジプト、大阪、東京。

家族。

友人。

恋愛。

仕事。

宗教。

いろいろなものに出会い、影響され、ときには自分自身を見失いながら生きていく歩。

その長い人生を、松坂桃李さんの声で追っていく。

これは紙の本で読むのとはまた少し違う、『サラバ!』の楽しみ方です。

『VIVANT』で黒須を演じる松坂桃李さんを見て、

「この人、やっぱりいいな」

と思った人にも、ぜひ一度聴いてみてほしいです。

映像がないからこそ分かる、声の良さがあります。

そして聴き終えたあとには、松坂桃李さんの朗読の素晴らしさだけではなく、

「自分は何を信じて生きているんだろう」

という『サラバ!』からの問いが残る。

僕にとっては、そんな作品でした。

息子たちがもう少し大きくなったら、いつか薦めてみたいと思っています。

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この記事を書いた人

地方で暮らすアラフォー男性。

仕事や日常の中で見つけた「これは良かった!」という情報を、実体験ベースで発信しています。

最近はAudible(オーディブル)での読書・インプットにハマり、実際に聴いた本のレビューや、忙しい社会人のための「ながら読書」についての記事を中心に更新中。

映画、音楽、子育て、暮らしなど、気になったことも幅広く。
自分が実際に試して、良いと思った情報を、誰かの役に立つ形で届ける。

そんなブログを目指しています。

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