山崎豊子の『白い巨塔』をAudible(オーディブル)で聴きました。

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山崎豊子『白い巨塔』の感想|Audible全5巻を聴いたレビュー

『不毛地帯』『沈まぬ太陽』『大地の子』と山崎豊子作品を聴いてきましたが、『白い巨塔』は少しタイプが違います。

何より、主人公・財前五郎が面白い。

天才的な腕を持つ外科医。

しかし同時に、教授という地位への野心を隠そうともしない。

出世したい。

認められたい。

自分の能力に絶対的な自信を持っている。

これまで聴いてきた山崎豊子作品の主人公は、聖人とまでは言わなくても、どちらかといえば良識や信念を持った人物が多かったように思います。

『不毛地帯』の壹岐正。

『沈まぬ太陽』の恩地元。

『大地の子』の陸一心。

そんな主人公たちと比べると、財前五郎は明らかに異質です。

でも、だからこそ面白い。

自分にとって財前五郎は、まさに「ダークヒーロー」と呼びたくなる主人公でした。

そして『白い巨塔』は、財前という一人の医師だけではなく、大学病院という巨大な組織の中で繰り広げられる権力闘争、人間の嫉妬、医療と命の尊厳まで描いた作品です。

1960年代に書かれた小説なのに、今読んでも驚くほど古びていません。

むしろ現代だからこそ、考えさせられる部分もありました。

この記事では、Audibleで『白い巨塔』全5巻を聴いた感想を中心に、財前五郎という主人公の魅力、教授選、山崎豊子作品おなじみの「男の嫉妬」、ドラマ版、そして今の医療と重ねて感じたことについて書いていきます。

目次

結論|財前五郎という主人公だけでも聴く価値がある

『白い巨塔』を聴いた結論

  • 財前五郎という主人公がとにかく面白い
  • 教授選の権力闘争は山崎豊子作品の真骨頂
  • 財前と里見の対比が深い
  • Audible版は全5巻・約64時間
  • 自分は1.7倍速で完走
  • 長いが最後まで聴く価値あり

ここからは、なぜ自分が『白い巨塔』をここまで面白いと感じたのか。

特に印象に残った財前五郎という主人公、教授選をめぐる権力闘争、里見との対比、そして大学病院という巨大な組織について、順番に書いていきます。

まずは、この作品最大の魅力だと感じた財前五郎から。

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財前五郎という「ダークヒーロー」が面白い

『白い巨塔』最大の魅力は、やはり財前五郎だと思います。

財前は、圧倒的な手術技術を持った天才外科医です。

その実力については本人も十分わかっている。

そして、

「自分こそ教授になるべきだ」

という野心を隠しません。

こういう主人公は、これまで聴いてきた山崎豊子作品では少し珍しく感じました。

たとえば『沈まぬ太陽』の恩地元は、会社からどれだけ理不尽な扱いを受けても、自分の信念を曲げません。

『大地の子』の陸一心も、過酷な人生の中で自分がなすべきことをなそうとします。

一方の財前は違う。

もちろん医師として圧倒的な能力があります。

でも、地位も欲しい。

名誉も欲しい。

勝ちたい。

自分を認めさせたい。

人間の欲望がむき出しです。

それなのに、単純に「嫌な主人公」とは思えませんでした。

圧倒的な能力。

自信。

野心。

危うさ。

全部ひっくるめて財前五郎という人物から目が離せなくなる。

善人ではない。でも悪人と言い切るのも違う。

自分にとっては、そんなダークヒーロー的な魅力を持った主人公でした。

教授選がとにかく面白い

『白い巨塔』の大学病院教授選をイメージした会議室

『白い巨塔』で特に面白かったのが、浪速大学医学部の教授選です。

医師の実力だけで決まるわけではない。

誰が誰を推しているのか。

どの教授がどちら側につくのか。

票はいくつあるのか。

どこまで根回しするのか。

そこに財前の義父・又一まで入り、あらゆる手を使って財前を教授にしようと動きます。

医療小説を聴いているはずなのに、途中から政治小説を聴いているような感覚にもなりました。

そして考えてしまいます。

医局員としてこの中にいたら地獄だろうな、と。

どちらの派閥につくのか。

誰に逆らってはいけないのか。

実力だけでは生き残れない。

大学病院という非常に特殊な社会を、ここまで面白い物語にしてしまう山崎豊子はやっぱりすごいと思います。

山崎豊子は「男の嫉妬」を描くのが本当にうまい

山崎豊子作品の「男の嫉妬」
  • 『不毛地帯』: 里井達也 ― 近畿商事 No.2
  • 『沈まぬ太陽』:行天四郎 ― 国民航空のエリート社員
  • 『白い巨塔』: 東貞蔵 ― 浪速大学医学部第一外科教授

『大地の子』の記事でも少し書きましたが、山崎豊子作品を続けて聴いていると感じることがあります。

この人は本当に、

「男の嫉妬」

を描くのがうまい。

『不毛地帯』の里井。

『沈まぬ太陽』の行天。

そして『白い巨塔』の東教授。

もちろん人物像も立場も違います。

ただ、自分より能力のある人間。

自分の地位を脅かす人間。

かつては自分の下にいたはずなのに、どんどん力をつけていく人間。

そういう存在を前にしたときの、プライドや嫉妬、執着の描き方が本当に生々しい。

東教授と財前の関係も、その典型だと思います。

優秀な弟子であるはずの財前。

しかし、その財前が自分を超えていこうとする。

認めたくない。

でも能力があることはわかっている。

この複雑な感情があるからこそ、教授選が単なる人事争いではなく、人間ドラマとして面白くなります。

財前と里見の関係もまた違った意味で面白い。

同じ医師でありながら、何を大切にするのかがまったく違う二人。

この対比も『白い巨塔』の大きな魅力です。

財前五郎と里見脩二|正反対だからこそ面白い

財前五郎と里見脩二。

この二人の対比が本当にいい。

財前は、圧倒的な技術と野心を持つ外科医。

里見は、患者と医療そのものに誠実であろうとする内科医。

財前は上を目指す。

里見は自分が正しいと思う医療を追求する。

どちらも医師として優秀です。

ただ、生き方がまったく違う。

だからこそ、二人の関係は単純な敵対関係ではありません。

互いに相手の能力を認めている。

でも、決して同じ道は歩めない。

ここがものすごく面白い。

『白い巨塔』を最後まで聴いたあとに振り返ると、この二人の関係こそが作品の中心だったのではないかと思うほどです。

ドラマ版を見た人は唐沢寿明さんと西田敏行さんで脳内再生される

自分にとって『白い巨塔』といえば、2003年のドラマ版の印象がかなり強いです。

財前五郎は唐沢寿明さん。

そして財前又一は西田敏行さん。

そのためAudibleで聴いていても、頭の中では完全にその二人で再生されました。

特に財前パパ。

原作を音声で聴いているのに、西田敏行さんの顔と芝居が浮かんでくる。

それくらいドラマ版の印象が強く残っています。

以前『ハヤブサ消防団 森へつづく道』を聴いたときにも、三馬太郎が中村倫也さんで脳内再生されました。

一度強烈な映像版を見ている作品をAudibleで聴くと、頭の中で勝手にドラマが再生される。

これもオーディオブックの面白さだと思います。

Audibleのナレーションは「演じ分け」がすごい

Audible版『白い巨塔』のナレーションは畑中ふうさんです。

長編作品で登場人物もかなり多い。

それなのに、

「誰がしゃべっているのかわからない」

となる場面が思ったより少なかったです。

財前。

里見。

東教授。

又一。

それぞれの人物がきちんと立って聴こえる。

声を聞いているだけなのに、頭の中で人物の姿が浮かんできます。

朗読というより、一人で何役も演じているような感覚でした。

長編オーディオブックでは、ストーリーだけでなくナレーターとの相性もかなり重要だと思います。

その点でも『白い巨塔』はAudibleで聴きやすい作品でした。

全5巻・約64時間。でも1.7倍速なら十分聴けた

Audible版『白い巨塔』は全5巻。

合計すると約64時間あります。

数字だけを見ると、

「長すぎる」

と思う人もいるかもしれません。

自分は1.7倍速で聴きました。

単純計算なら約38時間です。

もちろんそれでも長い。

ただ、車での移動やちょっとした空き時間を使って聴いていると、それほど苦には感じませんでした。

むしろ教授選や裁判など、一度話が動き始めると先が気になってどんどん聴いてしまいます。

山崎豊子作品は長編が多いので、

「読んでみたいけど分厚い本を見ると尻込みする」

という人には、Audibleはかなり相性がいいと思います。

Audible版『白い巨塔』
  • 全5巻
  • 合計約64時間
  • ナレーター:畑中ふう
  • 自分は1.7倍速で完走
  • 登場人物は多いが演じ分けがわかりやすい

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「がんを本人に告知しない」時代にも驚かされる

作品を聴いていて、時代の違いを強く感じる部分もありました。

特に印象的なのが、がんの告知です。

現在の感覚では、本人に病名を伝え、治療について説明し、本人の意思を確認することが当然のように感じます。

しかし『白い巨塔』の時代では、本人にがんであることを知らせないという考え方が、ごく自然に登場します。

最初は、

「本人に言わないの?」

と驚きました。

でも、この違和感こそが昔の作品を読む面白さでもあります。

医療技術だけでなく、患者と医師の関係や、病気に対する社会の考え方も時代によって大きく変わっている。

『白い巨塔』は人間ドラマとして面白いだけでなく、そうした時代の変化を感じられる作品でもありました。

60年以上経っても「白い巨塔」が古びない怖さ

『白い巨塔』の大学病院と医局をイメージした病院の廊下

『白い巨塔』の連載が始まったのは1963年。

そこから60年以上が経っています。

医療は大きく進歩しました。

当時なら治療が難しかった病気でも、現在ではさまざまな治療法があります。

医療機器も薬も診断技術も、比較にならないほど進歩しているはずです。

それでもニュースを見れば、

医師の長時間労働。

医療過誤。

病院や医療をめぐる贈収賄。

さまざまな問題が今もあります。

もちろん制度も背景も『白い巨塔』の時代とは違います。

それでも、

「人間が集まって巨大な組織を作る以上、こういう問題はなくならないのかもしれない」

と考えてしまいました。

さらに、これだけ医学が進歩しても、がんという病気そのものが世界から消えたわけではありません。

病気と向き合う人間。

命を預かる医師。

巨大な組織。

権力。

名誉。

嫉妬。

時代や形は変わっても、人間そのものはそれほど変わっていないのかもしれません。

だから『白い巨塔』は、60年以上経った今でも面白い。

単なる昔の医療小説ではなく、今読んでも通用する人間ドラマなのだと思います。

最後に里見へ宛てた手紙は忘れられない

ここは詳しく書きません。

『白い巨塔』をまだ読んでいない、聴いていない人には、ぜひ自分でたどり着いてほしいからです。

ただ一つだけ。

物語の終盤、財前が里見に宛てた手紙。

Audibleで聴いていて、ブルっとするほど心を動かされました。

自分はその文言を覚えているくらい、この場面が好きです。

あれだけ野心的で、自信に満ち、勝つことにこだわってきた財前五郎。

その人物を長い時間かけて見てきたからこそ、最後の言葉が響きます。

文章だけを抜き出して引用しても、あの感動は伝わらないと思います。

財前と里見。

二人の関係を最初から最後まで見てきたあとに聴くからこそ意味がある。

ここはぜひ本編で聴いてほしいです。

『白い巨塔が真っ黒だった件』を読むとさらに面白い

『白い巨塔』を聴いたあと、思い出した本があります。

大塚篤司さんの『白い巨塔が真っ黒だった件』です。

自分はこの本を紙で持っています。

現役の大学病院教授が、自身の体験をベースに教授選を描いた作品です。

これがまた面白い。

『白い巨塔』を読んでいると、

「さすがに今の大学病院はこんな世界ではないだろう」

と思う部分もあります。

ところが『白い巨塔が真っ黒だった件』を読むと、

「え、まだこんなことあるの?」

と思わされます。

派閥。

教授選。

嫉妬。

足の引っ張り合い。

もちろん山崎豊子の『白い巨塔』とは別の作品です。

それでも60年近く離れた二つの作品を続けて読むと、大学病院という特殊な組織について考えさせられます。

『白い巨塔』の教授選が面白かった人には、こちらもおすすめです。

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山崎豊子作品を聴くなら『白い巨塔』は外せない

『白い巨塔』は、これまで聴いてきた山崎豊子作品とは少し違った面白さがありました。

『不毛地帯』。

『沈まぬ太陽』。

『大地の子』。

これらの作品では、理不尽な組織や時代の中でも信念を貫こうとする主人公に惹かれました。

しかし財前五郎は違います。

野心がある。

地位を求める。

自信過剰でもある。

間違いも犯す。

それでも圧倒的な能力と魅力がある。

完璧な善人ではないからこそ、人間として面白い。

山崎豊子がこういう主人公も描くのか、と改めて感じました。

そしてその財前を中心に、

教授選。

男の嫉妬。

大学病院の権力構造。

医療過誤。

裁判。

命と尊厳。

さまざまなテーマが絡み合っていきます。

医療小説という枠だけでは収まりません。

自分にとって『白い巨塔』は、巨大な組織の中で生きる人間と、命の儚さを描いた最高の人間ドラマでした。

まとめ|財前五郎という人間を最後まで見届けてほしい

『白い巨塔』は長いです。

Audible版は全5巻、約64時間。

自分は1.7倍速で最後まで聴きました。

しかし聴き終わると、

「長かった」

より、

「この世界を最後まで見届けられてよかった」

という気持ちの方が強く残りました。

何より財前五郎。

これほど野心むき出しなのに、これほど目が離せない主人公はなかなかいません。

教授を目指して突き進む財前。

その財前と対照的な里見。

弟子への嫉妬とプライドに揺れる東教授。

その周囲で動く大学病院の人々。

そして最後にたどり着く場所。

特に里見に宛てた手紙は、今でも忘れられません。

60年以上前に書かれた作品なのに、組織、人間の欲望、医療、命というテーマはまったく古びていない。

山崎豊子作品をこれから聴いていくなら、『白い巨塔』はぜひ通ってほしい作品です。

長編だからと尻込みしている人には、Audibleで少しずつ聴く方法もあります。

財前五郎という強烈な人間を、ぜひ最後まで見届けてみてください。

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この記事を書いた人

地方で暮らすアラフォー男性。

仕事や日常の中で見つけた「これは良かった!」という情報を、実体験ベースで発信しています。

最近はAudible(オーディブル)での読書・インプットにハマり、実際に聴いた本のレビューや、忙しい社会人のための「ながら読書」についての記事を中心に更新中。

映画、音楽、子育て、暮らしなど、気になったことも幅広く。
自分が実際に試して、良いと思った情報を、誰かの役に立つ形で届ける。

そんなブログを目指しています。

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