映画『廃用身』原作をAudibleで聴いた感想|Aケアは本当に悪なのか?

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映画『廃用身』の原作をAudibleで聴いた感想とAケアを考えるアイキャッチ画像

2026年に映画化された久坂部羊さんの小説『廃用身』。

映画化をきっかけに気になっていた作品ですが、今回は原作をAudibleで聴いてみました。

聴き終わって最初に思ったのは、

「Aケアって、本当に悪いことなんだろうか?」

ということ。

もちろん、作中で描かれる「Aケア」はかなりショッキングです。

でも、患者本人だけでなく、その家族や介護者の負担、そしてQOL(生活の質)まで考えると、単純に「正しい」「間違っている」と割り切れなくなりました。

そしてもう一つ驚いたのが、フィクションなのに、

「これって実話だったっけ?」

と思うほどリアルだったこと。

現在、僕自身は介護の当事者ではありません。

それでも、超高齢社会に突き進む日本で暮らしている以上、いつか自分にも関係する問題なのだと思うと、かなりショッキングな作品でした。

この記事では、映画『廃用身』の原作をAudibleで聴いた感想を中心に、Aケアや介護、QOLについて感じたことを書いていきます。

※物語の核心部分にはできるだけ触れませんが、設定や序盤については触れています。

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目次

映画『廃用身』の原作は久坂部羊のデビュー小説

『廃用身』は、医師・作家の久坂部羊さんの小説デビュー作です。

2026年には染谷将太さん主演で映画化されました。

そして2026年10月7日から、Prime Videoで見放題独占配信もスタートしています。

作中で「廃用身」と呼ばれるのは、麻痺などによって動かなくなり、回復の見込みがない手足のこと。

主人公の医師・漆原は、高齢患者の介護に向き合うなかで、ある方法を考えます。

それが、本人の同意を得たうえで廃用身を切断する、作中の架空のケア「Aケア」です。

「A」は、切断を意味する英語「Amputation」の頭文字です。

「動かない手足を切断する」

この一文だけを見ると、とんでもない治療に感じると思います。

僕も最初はそうでした。

ところが、聴き進めるほど簡単に否定できなくなっていきました。


『廃用身』のあらすじ|ネタバレなし

神戸で高齢者医療にあたる医師・漆原は、麻痺して回復の見込みがない手足「廃用身」を切断することで、患者本人や介護者の負担を軽くする「Aケア」を考案します。

患者本人の同意を得ながらAケアを実践していく漆原。

しかし、その医療行為が世間に知られたことで、状況は大きく変わっていきます。

患者のために行っているはずの医療。

それは本当に正しいのか。

善意と医療倫理、本人の意思、家族や介護者の負担が絡み合い、簡単には答えの出ない物語になっています。

ここから先はネタバレになるので、この記事では結末には触れません。


『廃用身』はAudibleで聴ける

『廃用身』はAudibleでオーディオブック化されています。

著者は久坂部羊さん、ナレーターは若林佑さん。

再生時間は11時間26分です。

11時間を超えるので短い作品ではありません。

ただ、設定そのものに強烈な引力があり、

「このAケアは最終的にどうなるんだ?」

という興味でどんどん先を聴いてしまいました。

決して「ながら聴き」ができないわけではありません。

僕自身、車での移動中などに1.5倍〜2倍速にして聴いていましたが、倍速でも物語は十分頭に入ってきました。

僕の場合は、1.5倍〜2倍速である程度まとまった時間に一気に聴くスタイルと相性がよかったです。


『廃用身』をAudibleで聴いた感想

Aケアは本当に悪いことなのか?

Aケアを患者本人のQOL・本人の意思・家族の負担・介護者の負担・医療倫理の5つの視点から考える図

僕が『廃用身』を聴いて一番考えさせられたのが、Aケアそのものです。

動かなくなった手足を切断する。

文字だけを見ると、かなり残酷です。

ところが物語を聴いていると、

「患者本人・家族・介護者にとって、Aケアは必ずしも悪いことではないのでは?」

とも感じてしまいました。

介護される本人の負担。

介護する家族の負担。

介護職の負担。

そして本人のQOL。

何を最優先するかによって、答えが変わってきます。

身体をできるだけ元の状態で残すことが、必ず本人の幸せにつながるのか。

逆に、介護する側の負担を減らすために身体の一部を失うことを選択するのは許されるのか。

本人が希望していたらどうなのか。

僕には答えが出ませんでした。

そして、簡単に答えが出ないことこそが『廃用身』の面白さなのだと思います。


QOLを考えると何が正解なのかわからなくなる

医療というと、どうしても、

「治すこと」

「命を延ばすこと」

「身体を守ること」

が正しいように考えてしまいます。

でも『廃用身』では、その先にある、

「その人がどう生きるのか」

まで突きつけられます。

たとえば身体を維持できても、本人や家族が苦しみ続けていたら、それは本当に最善なのか。

一方で、QOLを理由に身体を切断するところまで医療が踏み込んでいいのか。

考えれば考えるほどわからなくなります。

Aケアに全面的に賛成するわけではありません。

かといって、

「そんな治療は絶対に間違っている」

とも、聴き終わった僕には簡単には言えませんでした。


『廃用身』は実話?Aケアは実在する?

『廃用身』がフィクションなのにリアルに感じる理由を、作者の医師経験や高齢者医療の現場経験から整理した図

Audibleで聴いている途中、僕は一度、

「これって実話をもとにした話だったっけ?」

と思って調べました。

結論からいうと、『廃用身』はフィクションです。

また、作中に登場する「Aケア」も架空の医療・ケアとして描かれています。

フィクションだと分かって、少し安心しました。

それくらいリアルなんです。

その理由を知って、さらに驚きました。

久坂部羊さんは医師であり、実際に高齢者医療の現場に携わってきた人物です。

映画化に際した久坂部さんと染谷将太さんの対談では、久坂部さんが『廃用身』を書いた当時、デイケア施設で高齢者と接していたことを明かしています。

そこには、廃用身によって床ずれが治らず、身体が重いため介護者の負担が大きくなっていた患者もいたそうです。

さらに、患者から「切って楽になるなら切ってほしい」という趣旨の言葉を何度も聞いたと語っています。

つまりAケアそのものはフィクションでも、

その発想の根底にある介護の苦しさは、現実の医療現場から生まれている。

だからこそ、これほど生々しく感じるのだと思います。


虐待や褥瘡の描写はかなりきつい

※この作品には、虐待・褥瘡・身体切断に関する生々しい描写があります。重い表現が苦手な人は、聴くタイミングを選んだほうがいいと思います。

Audibleで聴くうえで、一つ注意しておきたいことがあります。

決して明るくライトに楽しめる作品ではありません。

虐待や褥瘡(床ずれ)などについて、かなり生々しい描写があります。

文字で読むのとはまた違い、オーディオブックではナレーターの声から状況をリアルに想像してしまいます。

僕は聴いていて、

「これは結構きついな……」

と感じる場面がありました。

虐待や褥瘡など重い描写が苦手な人は、聴くタイミングを選んだほうがいいと思います。

「家事をしながら明るい気分で一冊」というタイプではありません。

ある程度、

「よし、重い作品を聴くぞ」

と思って再生したほうがいい作品です。

逆に言えば、それだけ介護や高齢者医療の現実について考えさせる力があります。


マスコミの描かれ方には腹が立った

もう一つ印象に残ったのが、マスコミの描写です。

詳しく書くとネタバレになるので避けますが、ある出来事を境に、Aケアや漆原医師を見る社会の目が大きく変化していきます。

それまでに何があったのか。

患者本人はどう感じていたのか。

家族や介護する人たちはどうだったのか。

そういった背景よりも、刺激的な部分が切り取られて広がっていく。

聴いていて、かなり腹が立ちました。

もちろん、Aケアには倫理的に大きな問題があります。

だから批判すること自体がおかしいとは思いません。

でも、

一部分だけを切り取ることで「正義」と「悪」が簡単に作られてしまう怖さ

も感じました。

これは医療だけの話ではなく、現実社会にも通じるテーマだと思います。


漆原医師は「悪い医者」なのか?

『廃用身』を面白くしているのが、主人公・漆原の存在です。

単純な悪人として描かれているのであれば、ここまで悩まなかったと思います。

「患者を苦しめてやろう」

「金儲けをしよう」

という発想からAケアを始めるわけではありません。

むしろ患者や介護者の負担を減らしたいという考えを突き詰めていく。

映画化に際した対談でも、漆原を演じた染谷将太さんは、演じるうえで大切にしたのは漆原の「善意」だったと語っています。

久坂部さんも、その純粋さや善意が、逆に怖さにつながる可能性を語っています。

ここが怖い。

悪意から始まった行為なら、簡単に否定できます。

でも、

「患者のために」という善意から始まった医療が、どこまで許されるのか。

その境界線が見えなくなっていくところに、『廃用身』の怖さがあります。


『廃用身』は介護の当事者ではない人にも読んでほしい

現在、僕自身は介護の当事者ではありません。

だから実際に家族を介護している人の大変さを、本当の意味で理解できているとは思っていません。

それでも『廃用身』はかなりショッキングでした。

なぜなら、

これは決して「自分には関係ない話」ではないからです。

親が高齢になれば、自分が介護する側になるかもしれない。

そして自分自身が年齢を重ねれば、今度は介護される側になる可能性があります。

そう考えると、『廃用身』で描かれている問題は、

これからの日本では、誰もが当事者になり得る問題

なのかもしれません。

今は介護に関係がなくても、

「自分だったらどうするか」

を考えるきっかけになる作品だと思います。


久坂部羊×ひろゆきの「Aケア」をめぐる議論も面白い

『廃用身』を聴いたあとに面白かったのが、久坂部羊さんとひろゆきさんの対談です。

映画公式でも、久坂部羊さんとひろゆきさんによる『廃用身』をめぐる討論が公開されています。

作品を聴く前と後では、おそらくAケアについての感じ方も変わります。

僕自身、『廃用身』を聴いたあとだったので、

「自分だったらどうするだろう」

と考えながら見ることができました。

『廃用身』をAudibleで聴いた人には、この対談もおすすめです。


『廃用身』はAudibleで聴くのがおすすめ?

Audibleとの相性については、僕はこんな印象でした。

再生時間:11時間26分/1.5〜2倍速で聴取
ストーリーへの引き込まれ度
考えさせられる度
医療のリアリティ
一気に聴き切りたい度
描写の重さ

ナレーションそのものは聴きやすく、倍速で聴いてもスッと入ってきます。

ただ、内容が内容だけに、虐待や褥瘡など重い描写が苦手な人は、聴くタイミングを選んだほうがいいと思います。

それでも音声で聴くからこそ、強烈に頭に残る部分もありました。

再生時間は11時間26分。

僕の場合は1.5倍〜2倍速でも内容を十分追えたので、ある程度まとまった時間で一気に聴くスタイルと相性がよかったです。

重い医療小説や、答えの出ない社会問題を扱った作品が好きなら、かなりおすすめできます。

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『MR』が面白かった人にも『廃用身』をおすすめしたい

同じ久坂部羊作品でも、『MR』と『廃用身』はかなり違います。

『MR』では、製薬会社のMRを主人公に、企業利益と患者ファーストの間で揺れる医療ビジネスが描かれていました。

一方、『廃用身』で問われるのは、

「患者にとって本当に幸せな医療とは何なのか?」

という、さらに根源的な問題です。

テーマは違いますが、どちらにも共通しているのは、

「医療の正解は一つではない」

と思わされること。

医師である久坂部羊さんだからこそ描ける、医療の表側だけではない世界があります。

『MR』が面白かった人には、『廃用身』もぜひ聴いてみてほしいです。


『院長選挙』はまた違った久坂部羊作品

久坂部羊さんの作品では『院長選挙』も読みました。

こちらは『廃用身』とはかなり雰囲気が違い、コミカルな部分も多い作品です。

ただ、その中で描かれる大学病院の権力争いや院長選挙は妙にリアル。

『MR』『廃用身』『院長選挙』と読んでみると、同じ医療でもまったく違う角度から描いているのが面白いです。

久坂部羊の医療小説『院長選挙』の表紙
久坂部羊『院長選挙』。こちらはAudibleだけでなく、実際に本でも読みました。

まとめ|『廃用身』は「自分だったらどうする?」と考えずにはいられない

『廃用身』を聴き終わっても、

Aケアが正しいのか、間違っているのか。

僕には答えが出ませんでした。

でも、それこそがこの作品のすごさなのかもしれません。

患者本人のQOL。

家族の負担。

介護者の負担。

医療倫理。

そして本人の意思。

どれか一つだけを見れば簡単に答えを出せても、全部を考えると途端にわからなくなります。

現在、僕自身は介護の当事者ではありません。

それでも、いつか親の介護に向き合うかもしれない。

そして自分自身が介護される側になる日も来ます。

そう考えると『廃用身』は、特殊な医療を描いたフィクションではなく、

これからの日本で、誰もが当事者になり得る問題を描いた小説

なのだと思います。

決して気分が明るくなる作品ではありません。

描写も重く、聴いていてつらいところもあります。

それでも、

「長く生きること」と「幸せに生きること」は同じなのか。
患者にとって本当にいい医療とは何なのか。

そんなことを考えてみたい人には、一度聴いてほしい作品です。

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この記事を書いた人

地方で暮らすアラフォー男性。

仕事や日常の中で見つけた「これは良かった!」という情報を、実体験ベースで発信しています。

最近はAudible(オーディブル)での読書・インプットにハマり、実際に聴いた本のレビューや、忙しい社会人のための「ながら読書」についての記事を中心に更新中。

映画、音楽、子育て、暮らしなど、気になったことも幅広く。
自分が実際に試して、良いと思った情報を、誰かの役に立つ形で届ける。

そんなブログを目指しています。

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