朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』をAudibleで聴きました。
2026年本屋大賞を受賞した、言わずと知れた話題作です。
率直な感想は「面白かった」。
ただ、単に「面白い小説だった」で終わる作品ではありませんでした。
というのも、僕はこれまでアイドルなどの熱心なファンや、いわゆる「推し活」とはほとんど縁のない人生を送ってきました。
グッズをコンプリートする。
全国各地の公演に遠征する。
SNSで推しの魅力を広める「布教活動」をする。
ときには競合するグループや、そのファンに対して攻撃的になる。
そういう人たちの姿を見ても、「そこまで夢中になれるのはすごいな」と思う一方、どちらかといえば冷ややかな目で見ていた側だったのです。
ところが『イン・ザ・メガチャーチ』を聴いていると、その見方が少しずつ変わってきました。
ファンが勝手に熱狂しているわけではない。
人を夢中にさせ、行動させ、さらに熱量の高いファンへと変えていく「仕組み」がそこにはある。
聴きながら何度も、「これって、まるで新興宗教みたいだな」とゾッとしました。
そして、もう一つ強く印象に残ったのが、3人の主要人物の一人である「久保田」の存在です。
ファンダムの熱狂とは別のところで描かれる、年齢を重ねたとき「やったこと」以上に「やらなかったこと」が重くのしかかってくる感覚。
そんな、自分の人生そのものまで考えさせられる作品でした。
この記事をひとことで言うと
推し活とは無縁だった僕が、ファンダムの「熱狂が作られる仕組み」にゾッとし、それ以上に47歳の久保田が抱える「やらなかったこと」に自分を重ねた作品でした。
『イン・ザ・メガチャーチ』のあらすじ【ネタバレなし】
『イン・ザ・メガチャーチ』は、朝井リョウさんが「ファンダム」をテーマに描いた長編小説です。
物語は、世代も立場も異なる3人の視点から進んでいきます。
- レコード会社に勤務し、あるアイドルグループの運営に関わることになる久保田
- 大学生活に居場所を見いだせずにいる澄香
- 舞台俳優の「推し活」に熱中していた絢子
ファンダムを仕掛ける側、のめり込む側、そしてかつてのめり込んでいた側。
3つの視点を通して、「人はなぜ何かを信じ、そこに時間やお金を使い、行動するようになるのか」が浮き彫りにされていきます。
題材こそアイドルや推し活ですが、実際に聴いてみると単なる「推し活小説」の枠には収まりません。
「人は何を信じて生きるのか」という、普遍的で大きなテーマへと話が広がっていく作品です。
推し活を冷ややかに見ていた僕が「新興宗教みたいだ」と感じた理由

前述の通り、僕にはいわゆる「推し」がいません。
好きな作家や映画、ラジオ番組などはありますが、グッズを全種類集めたり、全国のイベントを追いかけたりするような経験はありません。
だから、SNSで熱狂的なファンを見かけるたびに、「なぜそこまでできるんだろう?」と不思議に思っていました。
特に理解できなかったのが、ファン自身が自発的に「宣伝活動」を始める現象です。
SNSで推しの魅力を何度も紹介し、再生回数を増やし、ランキングを上げるために行動する。
周囲にも勧め、場合によってはライバルを攻撃する。
企業から給料をもらっているわけでもないのに、ファン自身がものすごい熱量で「広報」の役割を担っていく。
外側から見ている僕にとっては、正直よく分からない世界でした。
ところが『イン・ザ・メガチャーチ』では、人がそこまでの熱量を持つようになる「過程」が解像度高く描かれます。
それを聴いているうちに、「ファンが勝手に熱狂している」と考えること自体が、少し単純だったのかもしれないと思うようになりました。
熱狂は「物語」によって作られている
僕が特に面白いと感じたのは、ファンダムを「作る側」の緻密な描写です。
ファンに物語を与える。
ファン同士の仲間意識を作る。
応援することに意味を持たせる。
ファン自身に情報を広めてもらう。
参加すればするほど、そのコミュニティへの愛着が湧き、さらに深く関わるようになる。
そうやって個人の「好き」という感情が、どんどん巨大な熱狂へと変換されていくのです。
ここまでくると、僕には「推し活」というよりも、まるで新興宗教のシステムのように見えました。
もちろん、推し活と宗教が完全に同じだと言いたいわけではありません。
でも、共通の物語を信じ、同じものを信じる人同士でつながり、その素晴らしさを外部に伝え、より熱心に応援することが肯定される。
そして、ときには外部や競合に対して攻撃的になる。
その構造には、僕には似て見える部分がありました。
作品のタイトルである「メガチャーチ」は「巨大教会」を意味します。
聴き進めるほど、このタイトルが鋭く効いてきます。
僕にはこの小説が、「何かを信じている特殊な人たち」を描いた物語ではなく、「人はどうやって何かを信じるようになるのか」を描いた物語として響きました。
そして少し怖いのは、「自分はそんなものにはハマらない」と思っている僕自身も、本当にこの仕組みの外側にいると言い切れるのか? ということです。
好きな作家の新刊が出れば気になりますし、信頼している人がおすすめした本なら読みたくなります。
程度の差こそあれ、僕も誰かの言葉や「物語」によって行動を促されています。
そう考えると、『イン・ザ・メガチャーチ』で描かれている世界は、決して対岸の火事ではないのです。
3人の中で、僕が一番自分を重ねたのは「久保田」だった

この作品には3人の主要人物が登場しますが、僕が最も自分を重ねたのは、ファンダムを仕掛ける側の「久保田」でした。
久保田は47歳。
レコード会社で働き、かつては大きな仕事を成功させた経験があるものの、現在は会社の中心から外れています。
離婚して一人で暮らし、大学生の娘との関係にもどこか距離がある。
物語の核心に触れるので詳細は避けますが、彼はある程度の年齢になり、自分がこれまで歩んできた人生と静かに向き合わざるを得なくなっている人物です。
僕もそれなりに年齢を重ねてきました。
だからなのか、久保田のパートを聴きながら、深く考えさせられたことがあります。
それは、歳を重ねると「やったこと」よりも「やらなかったこと」の方が重くのしかかってくることがある、という感覚です。
若い頃なら「また今度やればいい」「これから変えればいい」と思えたことも、年齢を重ねるとそうはいかなくなります。
あのとき、なぜ向き合わなかったのか。
なぜ言わなかったのか。
なぜ与えなかったのか。
自分が何を成し遂げたかという「成果」よりも、人生に残された「空白」の方が、はっきりと輪郭を持って見えてくることがあります。
そして、その中にはもう二度と取り返せないものもある。
久保田の物語が、僕の胸には最も深く刺さりました。
YouTubeの「本ツイ!」に朝井リョウさんが出演された回でも、この3人の登場人物について「どの人に自分を重ねるか」という話題が出ていました。
僕の場合は、迷わず久保田です。
推し活やファンダムというテーマとは少し離れるかもしれません。
でも、この久保田の人生の物語があるからこそ、『イン・ザ・メガチャーチ』は単なる「現代の推し活を描いた小説」の枠を超えた作品になっているのだと思います。
熱狂する人。
熱狂を作る人。
そして、自分の人生を振り返る人。
読む人の年齢や立場によって、一番刺さる人物がはっきりと変わる。
そんな多面的な魅力を持った小説です。


Audible版は話題の新作がもう「聴き放題」。長編でも聴きやすい
僕は今回、『イン・ザ・メガチャーチ』をAudible(オーディブル)で聴きました。
ナレーターは岩崎了さんと大森ゆきさん。
再生時間は「15時間43分」とかなりの長編です。Audible版は2026年4月9日に配信され、現在はプレミアムプランの聴き放題対象になっています。
それでも個人的には非常に聴きやすく、長さはまったく苦になりませんでした。
3人の視点が切り替わりながら進む作品なので、音声で人物の違いを直感的に感じながら楽しめたのが良かったです。
そして何より驚いたのが、『イン・ザ・メガチャーチ』がすでにAudibleの「聴き放題対象」になっていることです。
2026年本屋大賞を受賞したばかりの話題作が、追加料金なしで聴けます。
Audibleに対して「少し前の古い作品が中心なんでしょ?」というイメージを持っている方もいるかもしれません。
でも長く使っていると、こういう話題の新作が、しれっと聴き放題に入ってくることがあるんです。
15時間を超えるボリュームの本屋大賞受賞作を、1冊丸ごと追加料金なしで聴ける。
これはAudibleを利用する大きなメリットだと改めて感じました。

まとめ|推し活をしない人にも深く刺さる小説
『イン・ザ・メガチャーチ』を聴く前の僕は、熱心に推し活をする人たちを、どこか外側から眺めていました。
「なぜそこまでできるんだろう?」という疑問があったのは確かです。
でも、この作品に触れることで、その「なぜ」の構造が少し見えてきました。
人が何かを好きになり、仲間ができ、物語が生まれ、熱狂が巨大化していく仕組み。
それは時に新興宗教のようにも見え、同時に、自分も決して無関係ではない社会の仕組みとして感じられました。
一方で、僕の心に最も残ったのは、熱狂する若者たちではなく、人生の「やらなかったこと」に向き合う中年の久保田の姿でした。
だからこそこの作品は、現在推し活に夢中になっている人だけでなく、「自分はそういうものにはハマらない」と思っている人にこそ読んで、あるいは聴いてほしい一冊です。
かつての僕自身がそうだったように、きっと価値観を揺さぶられると思います。
Audibleなら、15時間を超えるこの作品がすでに聴き放題対象です。
次に聴く小説を探しているなら、間違いなくおすすめします。


コメント